今週の名盤〜第2回:幼い頃から馴染んで来た音楽と、巨匠の名演。
今週は、5枚の名盤をご紹介。僕の幼い頃の思い出の詰まった曲もあり、感想を書いているうちに童心に帰ったりした。
① リパッティ&カラヤンのシューマン:ピアノ協奏曲 【旧EMI′48】
リパッティの選集に収録されていたもの。透明度の高く、しかも芯のあるピアノの音色は永遠の宝。若き日のカラヤンがサポートしている。
② ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルのチャイコフスキー:交響曲第5番 【Altus′77L】
東京文化会館ライヴ。軍隊のように規律の取れたアンサンブルには背筋がぞくぞく。ムラヴィンスキーは、晩年度々日本を訪れ、伝説的な巨匠として名を轟かせた。
③ ロペス=コボスのレスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 【Dec′78】
幼い頃、この曲をBGMに積み木やブロックで遊んでいた。第3組曲の《シチリアーナ》が有名だが、第2組曲の《田園舞曲》は、聴き手をイタリアの村の収穫祭へと誘う、幸福感あふれる音楽である。音源があまり残っていないのが残念だが、ここではロペス=コボスの演奏で。
ヴァントは、苦手だったのだが、ブルックナーの8番を今回聴いてみて、憂愁をたたえた名演だと感じた。天国への階段を登るような第3楽章は殊に悟りの境地を感じる。
⑤ バレンボイムのモーツァルト:ピアノ協奏曲第26番《戴冠式》 【旧EMI′74】
バレンボイムがただ者ではないことを感じさせてくれる演奏。指揮者として大成した今は、若き日の繊細なピアニズムを指揮に活かしているようだが、ピアノに関しては若き日の方が魅力的だったと思う。BOXでピアノ協奏曲全曲が聴けるので安くてお得である。
以上、5枚である。
今週の名盤〜第1回 定盤と新たな発見と
今週の名盤は、以下に挙げる7組。順次ご紹介していきたい。クライバー、ブッシュ弦楽四重奏団は、定盤だが、シュタインバッハーのような新たな名盤も発見し、狂喜乱舞している。
① ミケランジェリ&ジュリーニのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ドイツ・グラモフォン 1979年
ジュリーニ目当てで買ったCDの中に収録されていたが、思わざる拾い物。ミケランジェリの金ピカの音色が素晴らしいし、交響曲指揮者とオペラ指揮者両面の性格を併せ持つジュリーニの伴奏も天下一品。
ドイツ・グラモフォン 1974年
楽天的、響きが明るすぎ、と思うが、これほどオケ、そして聴き手を巻き込む能力のある指揮者はあとにも先にもいないだろう。クライバーには、スタジオで4番も録音して欲しかった、と思うのは贅沢だろうか。古典的名盤。
旧EMI 1966,67年
今年没後50年のイギリスの名指揮者の遺産から。ブラームスの交響曲全集本編ももちろん素晴らしいが、付録の管弦楽曲、《ハイドン変奏曲》《大学祝典序曲》《悲劇的序曲》、いずれも名演である。ブラームスのノスタルジーが散りばめられた《悲劇的序曲》が中でも素晴らしい。これほどブラームスに共感し、慈愛に満ちた演奏はそうそう聴けないだろう。オケはウィーン・フィルである。
④ ブッシュ弦楽四重奏団のベートーヴェン:弦楽四重奏曲第9番 旧EMI 1933年
どうしてそんな古いものを、と顰蹙を買うかもだが、90年の時を超えて心の音楽が伝わってくる。緊張感に満ちていながらも、精神を落ち着かせてくれる、魔法のような演奏。古い録音を聴かないという方も含め、是非とも耳を傾けていただきたいが、現在品薄の模様。
⑤ カラヤンのホルスト:《惑星》ドイツ・グラモフォン 1981年
7月16日はカラヤンの命日だった。そのカラヤンの至芸を目一杯堪能できる名盤は、こちら。ベルリン・フィルの重戦車のような低音、歯切れ良い弦楽アンサンブル、どんなに咆哮しても音が濁らない金管の洗練度、脱帽である。
旧フィリプス 1969年
コンセルトヘボウとの全集からの1曲。木管楽器の歌心や、弦楽セクションの切れの良さ、繰り返し聴きたくなる。重心が低く、安定感抜群。噛めば噛むほど味の出る演奏だ。タワーレコードから復刻版が出ている。
⑦ シュタインバッハー&デュトワのメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 PENTATONE 2014年
最新盤で、とんでもない名曲の名盤を見つけた。3月に読響で聴くはずだった、シュタインバッハーのメンデルスゾーン。全編哀感の支配する、メランコリックな名演。祈りに包まれており、心が洗われるような演奏。この名演を耳にすると、生で聴きたかったと歯軋りするばかり。
演奏会の再開
昨日、N響と九響が演奏会を再開した。制約はあるものの、多数の演奏会関連ツイートを見ていて、心が温まってきた。僕自身、5日に読響の演奏会に行ってきたところである。
新型コロナ予防の観点から、オーケストラは、団員同士の距離を保った形で演奏を行っている。編成もこじんまりとした形態が多い。普段の演奏会では、大オーケストラによる迫力満点のプログラムが組まれることが多いが、今は、演奏会のプロに普段はなかなか載らない、メンデルスゾーンの《管楽器のための序曲》、ワーグナーの《ジークフリート牧歌》という名曲が並んでおり、オーケストラの室内楽的な側面、例えば各パート同士の有機的なやり取りを存分に体感するチャンスではないかと感じた。昨夜の熊倉優指揮N響のベートーヴェンの交響曲第1番では、各声部が浮き立ち、しかも小編成な分、パート同士のやり取りがより緊密に行われていたのが一例だと思う。
しかし、僕としては、フル編成のオケがダイナミックに演奏するのをまた聴きたいところだ。今年1月のエッシェンバッハ指揮N響の《復活》のような大規模な編成のプログラムを聴けるのはもう少しあとになりそうだが、まずは演奏会再開を祝して、筆を置こうと思う。
【写真は、7月5日、読響演奏会に出かけた際のもの】
迷う楽しみ〜名盤探しは店舗で
僕は常日頃、CDを購入する際には、店舗に足を運ぶことにしている。
新型コロナ禍の中で、一時期は全店舗が閉店してしまい、僕は人生初のオンラインでのCD購入をした。ネットで商品を検索するのもそれなりに面白いし、たまになんとなくサーフィンしていると思いもよらない名盤が見つかることもあるのでそれはそれで良いのだが、店舗でCDの森を探求する楽しみには及ばない。
店舗でCDの森を歩き回り、見つけた名盤を手に取って、デザインなどを直に目にしたり、欲しい名盤を前にお財布と相談したりする瞬間が楽しいのだ。また、実際にお店に行くと、買おうと思っていたCDよりもさらに魅力的なCDがその場にあるのを見て、悩む瞬間が多々ある。どうしよう、これはこのお店でしか見ない商品だから、今はこれを買おうか、いや、でもこっちの商品もずっと欲しかった名盤だから……と悩むこと小一時間、ようやくこれにしようかな、と決めたCDをレジに持って行こうとしたら、途中でもっと魅力的な名盤を見つけて、名盤選びが振り出しに戻る、なんてこともよくある。オンラインではこれほど迷うことはまずない。欲しいCDが検索でヒットしたら、大体それで終わり。もちろん、目的なくサーフィンする時もあるけど、店舗のように、物理的にその場に数多のCDが置いてあるわけではないから、イマイチCD選びの臨場感が感じられない。やはり、店舗でじっくりじっくり、自分の納得いくまで、CDの森を探し回りたい。「迷う楽しみ」がほしいのだ。
ヨッフムと過ごす日々
ヨッフムだ、ヨッフムだと日頃騒いでいるが、僕がヨッフムが好きな理由は、彼の音楽が、あたたかでスケールの大きい音楽だからだ。彼の温厚で、しかもここぞという時には迫力にも富んだ音楽作りにはホッとさせられる。高校生の頃に、彼のハイドンの《ロンドン・セット》、ベートーヴェン交響曲全集を手に入れて、その音楽の虜となり、大学生になってからは、ブルックナーや宗教曲、オペラ、ブラームスの交響曲全集、ライヴ盤などを買い漁っている。つい先日も、コロナ禍の中で、何か気を紛らわすネタはないかとアイテムを探していたところ、ドイツ・グラモフォンから出ているヨッフムの声楽曲集を見つけて購入した次第。未だに聴き切れていないので、夏の間のお供としたいと思う。